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「さよなら渓谷」 吉田修一

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ほぼ一気読みでした。
少し前の秋田の事件を髣髴とさせるような、自然豊かな渓谷のそばでおきた事件。
その容疑者の母親の隣の家に住む夫婦。
記者が過去を調べるうちに、意外な事実が浮かび上がってきた。

被害者の女性側の心理しか分からなくて、それを思うととてもつらくて苦しくて。
被害者でもこんな風に噂されて、会社にもいられず、結婚もうまくいかず、
不幸に生きていくことしかないのか・・・と。

過去に何があったかなんて、もう掘り下げて知らなくてもいいのに。
今、彼女がどうなのか、前向きに生きようとしている。それでいいのに・・・
最近、昔の自分の経験をカミングアウトして、いかに辛かったか、大変だったか、と
それを披露することで注目される有名人が増えている。
確かにその人生を知ることで、同じような経験をした人が勇気付けられたり、
その人に魅力を感じたりすることもあるけれど、
「あの人、昔、こうだったらしいわよ。」「へーっ。」という噂話が大好きな
日本人の嫌な部分がむき出しになっているようで、あんまり・・・と思う。

この二人も二人にしか分からない結びつきで、ひっそりと生活し、普通に幸せになりそうに、
そしてお隣の子どもに何かしてやれたかな。と思っていたところだったのに、
記者にいろいろ聞かれて、過去を告白せざるをえなくなり、また彼女は去っていってしまった。
いつか彼女が幸せになれるときがきますように。

吉田さんの夏、暑い、汗だらだらな感じが、今の気候にぴったりで、
最初の二人の生活の描写など、また読み返してしまったほどうまくて、
暗くて重い内容なのに、なぜか読み進めてしまいました。不思議な魅力です。

by arinko-mama | 2009-07-16 23:04 | 読書